やがて春が来るまでの、僕らの話。
「……倉田先輩が」
もしかして、柏木くんの身近で起こったことなのかな。
そんなにひどい出来事、だったのかな……
「あの、」
「関係ないから」
「え…」
「お前には関係ない話だから」
「でも、」
「わかる?被害に遭ったやつがどんな思いでいるか、お前にわかる?」
「、」
柏木くんの言葉が、胸の底にズドンと落ちた。
「わかるわけないよな。巻き込まれた人間の本当の辛さなんて、わかるわけない」
「、…」
痛い。
“あの時”を思い出して、胸が痛い。
「だったら軽々しく口にすんなよ。興味本位で関わってくんな」
「私別に、興味本位でなんか、」
「許せねぇんだよ、まじで殺してやりたい。犯人も、そいつを止めなかった周りの奴らも」
「、…」
いつの間にかきつく拳を握っていた柏木くんは、雪のように冷たい声で最後に言った。
「みんな死ねばいーのに」
「、…」
世界の平和を望んでも、そんなの叶う訳ないってわかってる。
誰かの憎しみや悲しみがある限り、平和なんてただの理想でしかないってわかってる。
きっと私が、誰よりも一番わかってる。
わかっているのに願わずにいられないのは、誰かの平和を壊した過去があるから。
せめてもの償いを、したいから……
「……そんなこと、言わないでよ」
「は?」
「殺したいとか、…死ねばいいとか、そんなこと、」
「、お前には関係ねぇだろ!!」
「!」
怒鳴るように言ってすぐ、柏木くんはもう顔も見たくないのか私に背を向けた。
傍から見たらきっと、子供のカップルの大喧嘩。
だけど泣きそうなのは、喧嘩をしているからでも怒鳴られたからでもない。
泣きそうなのは……私もきっと、こんな風に思われているから。
殺したいって、死ねばいいって、そう思われている立場だから……