世界でただ一人のヒーラーは生殺与奪を握ってます。
 それは危険な考えだった。しかし信頼の証でもある。なんと返すべきなのか迷いが産まれる。
 王族批判は即ち反逆を意味する。
考えなかったわけでない。常に頭の中でよぎった。剣聖と謳われた父親が背後から何の抵抗もなく殺されることなどありはしない。そう思っても、そう思っても口に出してはいけない。出せば地獄の切符を手にすることになる。
「アリシア、お前は父の仇をとるつもりなのか?」
答えないでくれという思いの中で発した言葉。
「・・・エルザ、私は犯人が分かったら、誰であろうと仇をうちます」
青色の瞳が怪しく揺れる。殺気がこもる瞳の色。アリシアはこんなにも父親を愛していたのかと痛感した。私はどうだろうか?父親のためにここまで覚悟していたのか?いいや、私は王族という権力の前に膝を屈していた。
「アリシア、その時は私も手を貸そう、それに・・・その役目は私が背負うべき役割だ」
エルザの瞳に覚悟を感じたアリシアは「はい」とだけ答えた。
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