溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
電源ボタンを押してもなんの変化もない。故障という生易しいものではなく、完全に壊れてしまった。

「これはもう、ダメだ」
「見せてみろ」

落ち込んだ声でつぶやいた梨乃の手から、侑斗がスマホを取りあげた。

「これじゃ使い物にならないな。弁償するよ。俺がぶつかったせいで、悪かった」
「え、弁償なんていいです。長く使っていたのでそろそろ新しくしようと思っていたところで」

侑斗の申し出に驚き、梨乃はぶんぶんと首を横に振った。
前をよく見ていなかった梨乃に責任があるのだ。
侑斗に弁償してもらうわけにはいかない。

「今日は仕事も終わってるので、あとでショップで機種変更してきます。気にしないでください」
「だったらちょうどいい。俺も午後は珍しく時間が取れるんだ。今から一緒に行こう」

侑斗は当然だとばかりにそう言うと、梨乃のスマホをジャケットのポケットに入れてさっさと歩き始めた。
梨乃の戸惑いを意に介さないその後ろ姿はやはり白石家の人間のもので、自信と強引さが漂っている。

「あの、侑斗さん? ちょっと待ってください。困ります」
 
いったいどうなっているのだろうと慌てながら、梨乃は足早に歩く侑斗の背を追いかけた。



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