強引な無気力男子と女王子
 失礼だよな?
 でも、自分の知らない内に微かに笑顔が浮かんでいたなんて。
 どうしてなんだ。
 次の日。
 本当に雨が降りやがった。

 土曜日。
 今日は撮影をすると連音から連絡があったから、休日だしまだ寝たいと願う体にムチ打ってスタジオ兼溜まり場に向かうことにした。
 ふぁ、眠‥‥‥。
 あくびをしながら目的地まで歩く。
 周りの女からはキラキラした目で、一部の男にも憧れといった目で見られる。
 ウザいからそんな目線は無視だ、無視。
 近くにあった自販機でコーヒーを買う。
 そして缶に口をつけようとしたとき。
 「え‥‥‥!ち、ちょっと!」
 どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
 誰の声だ?
 頭で答えが出るよりも先に、反射的に体が動いた。
 見つけた。
 声の発信源は案の定と言うか、やっぱりと言うか柳井真紘がだった。
 逆ナンに絡まれて困惑している。
 逆ナンにあうのもそれもそのはず、真紘は男物の服を着ていた。
 ‥‥‥何であんな服を着てるんだ。
 女子だと言えば済む話なのに。
 テストでは上位に入るアイツの頭ではそんなことはすぐ分かるだろう。
 何か言えない事情があるのだろうか。
 なら、他人のフリをして助けた方がいいだろうか。
 ‥‥‥めんどくさい。
 そして、その面倒事に自ら首を突っ込みにいく俺は変わり者なのだろうか。
 それで変わり者と呼ばれるのは不思議と嫌じゃない。
 柄にもなくそんな事を思いながら俺は柳井真紘の方へと向かった。

 眠い。
 柳井真紘を助けたあと、俺は目的地のマンションに行った。
 その途中に、缶コーヒーが自分の手の中から無くなっていることに気づいた。
 するとまるで気づいた途端傷が痛みだすように、蚊に刺されたところが痒くなるように眠さが襲ってきた。
 溜まり場に着くとおはようも何も言わずに奥の部屋にあるベッドに倒れる。
 目を閉じると今日の真紘の顔がまぶたの裏に浮かんできた。
 ‥‥‥あの様子、俺のことを知らなさそうだな。
 少なくとも、知ってる奴に向ける目じゃなかった。
 なんだよ、俺のこと知らねーのかよ。
 それがなんだか悔しくて、面白くなくて、目を強く瞑る。
 知ってたの俺だけじゃん。
 そうこうしてるうちに、俺はいつのまにか意識を手放していた。

 「起きろ!」
 「んん‥‥‥。後十分‥‥‥」
 そう言いながら寝返りをうつ。
 「そんなに待つか!」
 「えー‥‥‥」
 朦朧とする意識の中で返事をする。
 この声は香かな‥‥‥。
 まあ声で判別しなくても大体起こしに来るのは香なんだけど。
 そんなことを考えていると再び寝そうになる。
 だけど香がそんなことを許すはずもなく。
 バシンと俺を叩く。
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