水曜の夜にさよならを
 最終電車を降り、帰宅する人の波に流されながら歩いていたわたしは、ショーウィンドウの前で足を止め、肩の上で跳ね返った髪の先を引っ張った。
 今朝こそ隙のないストレートヘアを作ったはずだったのにやっぱりだめだ。湿気がひどくてこの時間まで持ちはしない。

 パンプスの踵を擦りながら歩いていると、着信が入った。わたしは鞄からスマートフォンを引っ張り出す。

『着いた。先に入ってる』
 メッセージを送ってきたのは待ち合わせの相手、樹(いつき)だ。中三のころ通っていた学習塾で知り合ってから、もう十二年の付き合いになる。

『わたしも走ればあと三分』
 だからそれだけ送れば、彼は輪切りレモンがあふれるほど入った強炭酸のレモンサワーを注文しておいてくれる。気心知れた地元仲間、バンザイだ。爽やかな喉ごしを想像して、わたしの歩調は速くなる。

 毎週水曜日の夜は『ねこの会』の集まりがある。
 はじまりは中三の夏休み。夏期講習に行こうとして通りかかった蝉しぐれの公園で、入り口に置かれたダンボール箱が暴れているのを見つけた。その中にはそっくりなしま模様の仔猫が入っていた。六匹も。
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