貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
 今まさに宮城へと近づいて来るその車は、黒塗りに金の模様が施された手のかかったものだ。おそらく搭乗者の嫁入りのために、新しく新調されたものだろう。その後ろにも、嫁入り道具を運んでいるに違いない何台もの車が連なっている。

 本来ならそれを迎えるための官吏や侍従の姿であふれるはずの宮城には、ほとんど人の姿が見えない。


「さすが、蔡家だね。見事な車だ」

「本当ならもっとにぎやかにむかえるものなんだろうけど、父上も間の悪い時に死んじまったもんだよなあ。かわいそうに。どんなお嬢さんなんだろう」

「蔡家の一人娘、紅華……まだ十六歳じゃないか。よもや、こんなことになるなんて、彼女も思ってもいなかっただろうに」

 晴明は、近づいて来る車を見て複雑な表情でつぶやいた。それを見て天明は、く、と笑った。

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