貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
 紅華の前で足をとめた青年は、低い声で言った。

「顔をあげて」

 紅華はおそるおそる顔をあげる。

「蔡、紅華にございます」

 思っていた人物像とは違ったが、相手は間違いなく皇帝だ。機嫌を損ねれば言葉一つで人の命さえ左右できると聞く。さすがの紅華も、声が震えた。
 
「初めまして。私が、黎晴明だよ」

 緊張する紅華をじっと見つめた後、彼はふんわりと微笑んだ。

「よかった。怖い人だったらどうしようと思ったけど、とても可愛らしいお嬢さんだ」

「……え」

 おっとりとした優しい声音で言われて、紅華は動揺する。

(いえそれ、こっちの台詞……もっと怖い人かと思ったけど、もしかして、そんなことないのかしら? でも……)

 困惑した紅華を気にすることもなく、晴明は続けた。

「せっかく来てくれたのに、慌ただしくてすまないね」

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