貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
「お疲れでしょう。お茶を入れますわね」

「ありがとう」

 睡蓮は、優雅な手つきでお茶を入れ始めた。見るともなしにその様子を見ていた紅華は、その所作の美しさに思わずため息をついた。さすが、後宮を束ねる女官長だ。

「蔡貴妃様?」

 呼びかけるその声も鈴を転がしたように涼やかで、女の紅華でも聞きほれる。


「ああ、ごめんなさい。疲れたわけじゃないの。あなたがあまりにも優雅にお茶をいれるから、つい見惚れてしまったわ」

 その言葉に、はにかむように睡蓮は微笑んだ。色白ではかなげな美しさは、紅華よりもよほど後宮という場に似合うお嬢様だ。

「まあ。貴妃様にそう思っていただけるなんて、この上なく光栄なことですわ。さ、どうぞ」

「ありがとう」

 ふくいくとした香りが広がる。ほどよい熱さで入れられたお茶が、疲れた体に染み渡った。
< 29 / 237 >

この作品をシェア

pagetop