貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
「おいしい」

「ようございました。すぐに夕餉にいたしましょう。用意いたしますね」

「ええ。……ねえ睡蓮」

「はい」

「私、オバケって初めて見るわ」

 いきなり言われた睡蓮が紅華の視線を追う。開け放たれた窓に向けられた紅華の目には、さかさまにぶら下がる人間の影が見えていた。
 不審者と思わなかったのは見たことのある顔だったからだし、本人なのかと疑問に思うのはその行動があまりにも突飛だったからだ。

 結果、紅華はソレを宮城になにかしら関係のあるかもしれないオバケ認定した。

「まあ」

 驚いたように、睡蓮が口元を押さえた。

「あら、睡蓮にも見えるの? じゃあ、オバケじゃないのかしら」

「そうですね……あれは」

 睡蓮が言い終わらないうちに、その影はくるりと回転すると、軽い足取りで着地した。その姿を見て、紅華はきょとんとする。

 そこに立っていたのは、姿かたちは先ほど広間で会ったばかりの黎晴明に見えた。だが紅華は目を瞬く。


「どちら様?」
< 30 / 237 >

この作品をシェア

pagetop