仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 それが耳に入らないのは、この偶然に驚いている自分がいるからだ。

(この人と結婚したら楽しそうだ。きっと笑った顔も素敵だろうから)

 なぜかそんなふうに思っていることに気付き、戸惑う。

(結婚なんて考えてなかっただろ。したいことを制限されるくらいなら独身でいい。そう思っていたんじゃないのか……?)

 母と喋っていた彼女がこちらへ目を向けた。

 時間にすればたった一秒にも満たなかっただろう。

 けれどその一瞬で彼女は軽く目を見張り、微かに唇を引き結んでぱっと目を逸らした。

 嫌悪は感じない。むしろ、意識しているからこその好意に見えてしまう。

(――ああ、そうか)

 胸に感じたことのないものが込み上げる。

 彼女と目を合わせたその一瞬で気付いてしまった。

(俺は一目惚れしたのかもしれない)

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