仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 もう少し会話を続けたいけれど、紗枝さんはキッチンに立ったままこちらを振り返らない。

(これでもまだ、マシになった方か……)

 最初、紗枝さんはずっと敬語だった。

 ただでさえ線を感じているのに、よりよそよそしく思って悲しくなった。

 俺の方からやめるようお願いしたところ、ためらいながら今のように話してくれるようになったというわけだ。

 そのときに少し照れた様子で敬語を取り払ってくれたのがかわいかった。

 と、俺が思っていたことを紗枝さんはもちろん知らない。

「手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。もう出来上がるから」

「なら、テーブルまで運ぶよ」

「ありがとう」

 短く返答すると、紗枝さんはカウンターに出来立ての料理を並べていく。それをテーブルへ運びながら、自分の下心に苦笑してしまった。
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