仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
「社長の耳に入ったら、うちの親の耳にも入るだろ。その程度の仕事で昇給をねだるなんて、って鼻で笑われるか、死ぬほど怒られるかどっちかだよ」

「怒られるお前を見たかったら、昇給の話をすればいいわけか」

「げ。絶対やめろよな」

 小突かれて笑う。

 渡辺は問答無用で勝手にポテトをつまむと、わざとらしい溜息を吐いた。

「俺も新婚時代に戻りたいよ」

「それ、もう何回も聞いたぞ」

「だって一番幸せな時期だろ」

 ずき、と胸が痛んだ。

 新婚ではなくなった渡辺が吐く愚痴の内容でさえ、俺と紗枝さんには経験がなかった。メールのやり取りも電話のやり取りも、事務的な内容くらいでしかしない。

 雑談やそういったもののためのツールとして使っていないのだ。あくまで報告、連絡をするためのものでしかない。
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