仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 となると、事態に慣れている私やほかのスタッフが相手をせざるをえなかった。

 そのとき以上に気疲れしたのは、ここに来る前から緊張していたせいだろう。

(……まあ、逆に肩の力が抜けてよかったのかも)

 裾を払い、朝に美容院でセットしてもらった髪を撫で付ける。

 改めてエレベーターの場所を探すと、すぐに見つかった。短い階段を上った先の奥まったところにあるのを見て、まっすぐそこへ向かう。

(あとはご挨拶のときに下手なことをしないようにしよう)

 これからのことを考えていたせいか、足元への意識が疎かになる。

 あ、と声を上げる間もなく、ヒールが階段に引っかかったのを感じた。手すりを掴もうとして失敗し、身体のバランスが崩れる。

(ほんとツイてない――)
< 33 / 394 >

この作品をシェア

pagetop