寄り添って、そっと手を繋ごう
「ありがとう」
その先の言葉を口に出してしまえば、春樹くんはどう変わってしまうのだろう。
緊張で頬を赤らめる彼を、きっと落胆させてしまう。
こんな、私が。こんなに、良い人を。
勇気を出してくれた彼に、返事をしなければならない。私も、勇気を出さなければならない。人を傷つけてしまうことは、できればしたくないけれどーー…
「でも、私…付き合ってる人がいるの…」
そのあとは、春樹くんの顔を見ることができなかった。
「あ…えっと、そうなんですか!…ちなみにいつから…」
ほら、戸惑いつつも明るく、気を遣わせまいと必死に会話しようとしてくれる。
「2年くらい前かな」
だから私も普通に、返す。顔は見れないけど、私が動揺することは、この状況ではしてはいけない。
「結構、長いんですね!あ、先輩俺と会ってて大丈夫でした?ふたりで何度か…その…」
「うん、遠距離だから…ごめん、春樹くんと会ってることは彼氏もね、知ってるの」
もう、見てられない。
これ以上、この優しい人を傷つけたくない。
「帰ろっか、春樹くん。駅まで歩こ」