月に魔法をかけられて
「後藤さん、本日はご出席いただきましてありがとうございます」

「あっ、藤沢副社長。お世話になります。今回の新色コスメも大盛況になりそうですね。今ちょうど美月ちゃん……いえ山内さんと一緒に話をしていたんですよ」

副社長は一瞬笑顔が消えた顔をチラッと私に向けると、再び笑顔に戻り、純也さんに話を続けた。

「ありがとうございます。そうだといいのですが……。やはり発売されるまでは顧客の反応が毎回心配ですね」

「そうですよね。経営者としてはやはり心配ですよね。そのお気持ちとてもよくわかります。でも美月ちゃんのこのメイク見たら……この可愛くて色っぽい艶感だと、僕はこのコスメ、かなりヒットすると思うな」

純也さんが悪戯っぽい笑顔を私に向けた。

「もう純也さん、さっきから恥ずかしいのでやめてください」

私は思わず顔を逸らすようにうつむいた。
するとまるで私たちのやりとりをスルーするかのように、副社長が淡々と純也さん頭を下げた。

「そのように言っていただいてありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。では後藤さん、お時間までどうぞお食事とご歓談をお楽しみください」

そしてすぐに「山内さんちょっと」と言って私を呼んだ。
「はい」と返事をして副社長のそばまで近寄る。

「山内さんはもうマーケの人間ではなく俺の秘書なんだから俺の近くから離れないように。用事を頼むときにいないと困るだろ」

とても機嫌の悪そうな声が耳元から聞こえてきた。

「す、すみません……」

反射的にすぐに頭を下げ、恐る恐る副社長に視線を向ける。副社長は私に背中を向け、既に別の招待客と話を始めたところだった。

これって相当怒ってるってことだよね?
私がいつもと一緒のマーケの気分でいたから……。
パーティーが終わったらきちんと謝っておかないと。

私は落ち込む気持ちをなんとか奮い立たせ、副社長のそばから決して離れないように、後ろをついて歩いた。
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