月に魔法をかけられて
一瞬、何が起こったのかわからず、抵抗していた手が止まる。

い、今……何て言った………?

いや、ありえない。
絶対に聞き間違いだと思いながらも、頭の中が真っ白になる。すると次第に抱きしめられていた腕の力が緩くなっていった。

涙を流したまま恐る恐る目線を上にあげると、副社長は私に真っ直ぐな瞳を向けていた。

「美月を好きだからに決まってるだろ。だから心配してるんだよ。なんでわからないんだよ」

落ち着いた口調に変わったものの、瞳がゆらゆらと悲しそうに揺れている。

私の聞き間違いじゃないよね?
やっぱり好きって聞こえた。
私のことが……好き?

私の驚いた表情を見て、今度はふわりと包み込むように抱きしめた。

呼吸が落ち着いたところで、副社長はゆっくりと身体を離した。

「俺は美月のことが好きだ」

私の両肩に手を添えながら再び真剣な瞳を向ける。

「だ……だって……。副社長……そ、壮真さんには……」

「んっ?」

「好きな人がいるって……」

私の言葉に副社長がふっと表情を緩めた。

「なあ、その好きな人が美月だとは思わなかった?」

「えっ……わたし……?」

「そう、美月のことだよ。あれだけアピールしてたのに、全く気づいてもらえてなかったんだな……」

副社長は自嘲するように笑みを浮かべて小さく息を吐いた。
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