月に魔法をかけられて
副社長は私の手を取るとソファーに座らせ、その横に自分も座った。そして私の手を握ったまま自分の膝の上に置くと、緩やかに視線を向けた。

「なあ美月。俺が誰にでもこんな風に手を握ったり、抱きしめたりしてると思った?」

ふっと口元を緩めながら私を見つめる。

「だ、誰にでもってわけじゃなくて……。でも……」

「でも?」

「私が男の人を怖がってたから……だから同情して慰めてくれてるのかと……」

「なんだよそれ……。好きな女じゃないと触れたくもねぇよ。美月だからこんなに触れたくて仕方なくて……。だからいろいろ理由をつけては手を握ったり抱きしめたりしていただんだろ」

拗ねたように呟きながら溜息をつく。

「ご、ごめんなさい……」

「仕方ないよな。美月、ほんとに鈍感だもんな」

「鈍……感……?」

「そうだろ? 普通は気づくだろ。あれだけ抱きしめたり触れたりしてるんだぞ。普通の女なら、『私のことが好きなのかも?』って思うもんだろ」

そうかもしれないけど……。
勘違いしてつらい思いなんかしたくなかった。
だって副社長は絵奈さんのことが好きだと思っていたし。
だから副社長が私を好きになってくれるだなんて、本当に思ってもいなかったから……。

私が何も言えず黙っていると、副社長の指先が私の髪の毛に触れ、流れるようにするりと耳にかけた。耳に手が触れられたことで、反射的に身体がビクンと反応する。

そんな私を見てフッと笑みをこぼすと、再び私の髪の毛に触れながらゆっくりと頭を撫でた。
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