怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 田中はしばらく黙った。自供は無理か? 要がそう思ったときだ。田中の頬がにっと持ち上がった。顔を上げた田中は、気味の悪い笑みを浮かべていた。

「遺体じゃない」
「は?」
「遺体じゃない。生きたまま焼いたんだよ」

 一同は耳を疑った。〝生きたまま〟そのフレーズと、嬉しそうな声音に。
田中はなおも嬉々として言った。

「あの女、舌を切られて喋れないもんだから、焼却炉の前で自分が焼かれるって知って奇声発してた。命乞いをしてたんだと思うと、清々するよ」

 ハハハッと楽しげに笑ったかと思うと、今度は一変して不機嫌に吐き捨てる。

「どうせ騒いでうるさいだろうから、あの茂みで縛り付けた際に、舌を切り取ってやったんだ。嘘つきの裏切り者には相応しい!」
「嘘つきの、裏切り者ねぇ。田中さんと猪口さんの間には何があったんです?」
「……何も。何もないよ」

 きょとんと、田中は要を見た。
 田中と猪口の間には何もない。多分、それは本当だろうと要は直感的に思った。猪口にそこまでの恨みがある者は、おそらく別の人間だろうと。

「舌は何故残したんです? 暗くて見過ごしましたか?」

 そんなわけがない。わざわざ切り落としたのに、見過ごすはずがない。そう思っていても要はそう尋ねた。

「置いてきたんだ。あの女にはそれが相応しいから」
「あなたは今、猪口さんの殺害を認めました。それは、理解してますよね?」
「……」

 要の詰問に、田中は無言だった。ただ、小さく小さく、頭を振る。ジェスチャーを表しているというよりは、小刻みの振動という感じだ。

「様子がおかしくない? 大丈夫なの?」

 田中の奇怪な行動に、笹崎が心配して誰に言うでもなく呟く。
 要は緊張感からか、小さくため息をついた。

「由希、大丈夫?」

 こそっと、由希に話しかける。由希は要を見ずに、強張った表情で答えた。

「来る……多分、あの黒い煙……」
「ジャブダルさん、上河内さん連れて外に出てください!」
「え?」

 ジャブダルが呟いた瞬間、田中を中心にして突風が駆け抜けた。窓ガラスが一斉に音をたてて割れて行く。黒い靄のような煙が、田中の中から湧き出してきた。だが、それを視覚で捉えたのは由希だけだ。

「キャア!」

 笹崎が叫んだ。

「やめて! 上河内さん!」

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