怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「由希! 上河内さんがペンションから出ないと、警察呼べない! 上河内さんまで暴行罪で捕まりかねないから!」

 次々に飛んで来る物を避けながら、要は声を張った。由希は頷くと、ジャブダルと笹崎に向って叫んだ。

「ジャブダルさん! 笹崎さん! 上河内さんを早く!」
「いや、その必要はない」

 ジャブダルは毅然とした声音で言い放ち、掴んでいた上河内の腕を離した。途端に、上河内は側にいた笹崎に襲い掛かり、笹崎は悲鳴を上げながら抵抗する。

「……は? 何言ってんの、おっさん」

 要が呟くと、ジャブダルは笹崎に馬乗りになっている上河内を見下ろした。

「様子がおかしいと思ったら、やっぱりまた憑依されたのかね。上河内君」

 やれやれとため息を吐くと、ジャブダルは瞬間的に息を止めた。ぐらっとした感覚が由希を襲う。要に異常はない。相変わらずぽかんとジャブダルを見つめている。
 じゃあこれは? と、由希はジャブダルに視線を投げた。

 空気が引っ張られるような気がした。それはジャブダルに向っている。彼は、カッと目を見開いた。

「ハアッ!」

 気合を入れた掛け声と共に、引っ張られていた空気が弾け飛ぶ。強い風が吹いた気がした。光のような、暖かく、けれどとても強烈な何かが身体を突き抜けて行く。

 瞬間、ぐらっと視界が歪んだ。ブラックアウトしそうになったが、膝を突いた瞬間に正気に戻った。意識がはっきりしている。吐き気も頭痛もない。由希は顔を上げた。
 視線の先のジャブダルは、快活に笑っている。

 上河内は笹崎の上で気絶していた。笹崎が重そうに上河内をどかそうとしている。由希はそこで我に帰って振り返った。田中が倒れている。駆け寄ると息はあった。先程まで感じられたどす黒い気配が消えている。

 祓ったんだ。由希はそう思った。
 状況がつかめていない様子の要に近づいた。

「由希、何があったの?」
「抜群の推理力の要ちゃんでも分からない?」
「な~に、皮肉ぅ? 珍しいじゃん」

 由希はふふっと笑って、

「ジャブダル先生って、上河内さんが先生って呼ぶだけあって、本当はすごい人みたい」

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