初恋前夜
 顧問の最後の「ははは」という笑いだって、
 ――あ、ヤベ、俺の感性鈍っちゃったかな。
なんていう自嘲だろ。自分のミスチョイスをごまかしてるだけじゃないか。
 それに何より、投票者の内訳を伏せてさえいてくれれば、ひょっとしたら一穂が僕を選んだかもなんていう淡い幻想を抱き続けられたのに……。
 それにしても――。
 選評は裏を返せばこういうことか?
 物語のキャラクターと実際の部員たちの個性がマッチしてないから、演じる姿も想像できない。お前が描く人物たちは部員が演じにくい。なぜならお前が 勝手に妄想で描いて気持ちよくなってるだけだから。
 こんなときにクソ忌々しい楓の言葉が頭をよぎった。
『共同作業より性に合ってんじゃね?』
 そう付け足して小説を書けと言った。
 ああ、ああ、どうせ僕は強調性が乏しいのさ。
 でもあの後輩くんが優れてるなんて思っていないぞ。
 
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