赤鬼と黒い蝶
「おばさん、陥没事故の死亡者が掲載された新聞、まだありますか?」

「……あるけど」

「見せてもらえませんか?」

「ちょっと待ってね」

 喜与の母親は古い新聞の束から、陥没事故に関する新聞を抜き取り、あたしに見せてくれた。

 生々しい事故現場。
 ぽっかりと空いた巨大な穴。
 粉々になったコンクリート、崩れ落ちた倉庫。毛布に包まれた何体もの遺体。

 新聞には死者の顔写真と名前が掲載されていた。当時の記憶を手繰り寄せ、顔を確認する。

 殆どの人が……。
 倉庫から逃げ出すことなく、若い命を落とした……。

 行方不明者として……。
 あたしと美濃の写真も掲載されていた。

「那知……。璃乃……」

「お姉さんはまだ見つからないの?」

「……はい」

「きっと見つかるわ。だから諦めないで」

「……はい」

「あなたは生かされたのよ。だから、その命を無駄にしないで。喜与やお友達の分も、生きて生きて生き抜くの。悔いのない人生を強く生き抜くのよ」

 喜与の母親は、泣きながらあたしの両手を握った。

「……はい」

 喜与の遺影の前で……。
 あたしは誓ったんだ。

 もう無茶はしない。
 もう……命を粗末にしないと。

 喜与のバイクを借り、あたしは那知と璃乃の家に行き、仏壇に線香を点し冥福を祈った。2人の家族も、泣いているあたしに『強く生きなさい』と、声を掛けてくれた。

 あたしは泣きながら、『はい』と答えることしか出来なかった。

 ――どうして、あたしは生かされたのだろう。

 この痛みを……。
 この悲しみを……。
 1人で背負うには辛すぎる……。

 璃乃の家を出て、泣きながらバイクを走らせ、信也の勤務先である修理工場に向かった。
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