ニセモノの白い椿【完結】
その温もりが、余計に感情を昂ぶらせる。
こらえたいと思えば思うほどに、涙が溢れ出して来た。
「もし、嫌なら、突き飛ばしていいよ」
優しい声でそんなことを言う木村に、最後の抵抗をするように言った。
「さっきは、勝手に、抱きしめて、来たくせに……っ」
しゃくりあげながら言っても、意味なんてないけれど。
「……そう言えば、そうだったかな」
そのとぼけた声に、苦笑する。ぽんぽんと私の背中を叩く。それがまた優しげで。身体が勝手にその胸に身を預けてしまいたくなる。胸に当てた耳に直に届く木村の鼓動と、声。
それが、私の心を弱くする。
それに応えるように、私の背に置かれていた木村の手のひらにぐっと力が込められ、完全に腕の中に閉じ込められた。
その腕に込められた力のせいで、違う自分の顔が出て来そうになる。
いつもなら、憎まれ口の一つでも放つべきシーンなのに。
あまりにきつく抱きしめて来るから、言葉なんて何も出てこない。
「もう、心配させないでください」
さっきみたいに抑えたものじゃない。木村の心からそのまま吐き出されたような声に、胸が痛む。きつく私の頭を引き寄せる手のひらと、身体を覆うように抱き寄せる手のひら。
だから。気付いた。
木村も震えていたということ。
「勝手に、一人で、どこかに行かないで……」
私に触れる手のひらから、木村の思いがそのまま伝わる。
それは、男女の感情じゃなく、親愛の情。
それは、きっと、彼なりの友情の証。
冗談や適当な言葉じゃなくて、本当に私を大事な友人だと思ってくれているんだと知る。
更けて行く夜、私の震えが止まるまで、木村はただ私を抱きしめた。