ニセモノの白い椿【完結】



「木村さんっ! その手どうしたんですか!」

白石さんの甲高い声が、廊下に響く。

白石さんと共に他部署から戻る途中の廊下で、木村とすれ違った。
木村の手に巻かれた包帯を目にした白石さんが、木村を引き留めたのだ。

「ああ、ちょっと料理中にケガをして」

大して表情を動かすこともなくそう言うと、木村はその手をズボンのポケットに突っ込んだ。

「大丈夫ですかっ? もしかして、包丁で……?」

上目遣いで木村の真正面に立つ白石さんから、少し距離を取って立つ。

「まあ、そんなところかな。これ、大袈裟に見えるかもしれないけど、大したことないからご心配なく。では」

木村の余所行きの笑顔が白石さんに向けられる。
その次の瞬間、ちらりと私に寄せられた視線のあと、お互い会釈をして、木村が横を通り過ぎる。

顔見知り程度の同僚として、ちょうどいいくらいの行動。

それは以前と何も変わらない。

今朝も――。

木村の態度は、これまでと何一つ変わらないものだった。

今日の外回りは面倒な奴なんだ、とか、そんな日に天気が良くても嬉しくないとか、そんなどうでもいいことをぺらぺらと喋っていた。

前の晩のことのせいで、これまで感じることのなかったぎこちなさみたいなものがあったらどうしようと少し不安だったから、そんな木村を見てどこかホッとした。

何か別の感情が現れてしまった瞬間に、この生活は続けられなくなる。

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