ニセモノの白い椿【完結】
「椿……、泣いてるのか?」
元夫の手が、何を思ったのか私の頬に伸びて来る。
「泣いてなんかない」
この男の前で、泣いてなるものか――!
ぐっと歯を食いしばり、思いっきり顔を逸らした。
「私は、もう、あなたとのことは忘れた。これから先の事だけを考える」
心を抉られながら、一人で暗闇の中、苦しみながら。やっとの思いでふっきった。
「だから、もう会いに来たりしないで――」
「やっぱり、椿でなければだめなんだ。もう一度、やり直そう」
私の腕を強く掴み、私の声を遮って言い放った。その言葉に、私は目を見開く。
「な、に、言ってるの――」
「優里と暮らしてみて、気が付いた。君がどれだけ僕に尽くしてくれていたか。温かな料理も、いつも笑顔で出迎えてくれていたことも。あれは、君が僕を大事に想っていてくれたからこそのことだったんだよな」
そうよ。だからこそ、別れた時、死ぬほど苦しんだ。
この男は、私と離婚するときに、少しも想像しなかったんだろう。
人をあんなにも簡単に踏みにじったのに、こんな風に軽々しく私の前に現れて。
「椿、お願いだ。僕と、もう一度やり直してくれ。もう、優里とは無理だ。椿と全然違う。わがままばかり、自分の主張ばかりで。愛想がつきた。優里に対して抱いていた感情は、愛情なんかじゃなかったんだ。僕が愛しているのは、椿だけだ」
虚しさと、怒りと、哀しみと。いろんな感情がないまぜになって、どうしようもなく感情がたかぶる。
「ふざけないで!」
私は初めて、この人に声を荒げた。
腕を振り払い、睨みつける。