ニセモノの白い椿【完結】
そんな私たちを苦々しい表情で見ている元夫に構わず、木村は私の肩を支えながらさっさと歩き出した。
「一体、なんなんだよ。どこまで連れて行くつもりだ」
しびれを切らした夫がそう文句を言った時、木村が立ち止まった。
そこは、私たちの銀行から2ブロックほど離れた、路地裏だった。
確かに、ここなら職場の人は通らないだろう。
ここまでの道のり、がっしりと肩は掴まれたままだった。
一体何の真似だ――?
まったく、木村の考えていることが分からない。それでもきっと、何か考えがあってのこと。そう思い、なされるがままでいた。
「――すぐに済みますよ。あなたと話すことはほとんどありませんから」
「……なに?」
元夫は、苛立ちを隠せないのか、落ち着きなく手をズボンのポケットに入れたり出したりしていた。
「もう、こういう、未練がましい行動はやめていただけますか」
「……は?」
は?
元夫の発したものと同じく、心の中で聞き返してしまった。
「ご心配いただかなくても、彼女のことは僕が守って行きます。彼女には僕がいる。では、失礼致します。行こうか、椿さん」
「は? え?」
なんだかよく分からない満面の笑みを向けられる。
なに、その嘘ーー!
は、とか、え、とか意味のないひらがなを発してしまう。
もしかして、私が惨めな姿を夫に見せずに済むように、嘘をついてくれているのか?
私の恋人のフリをしてくれているのか。
「――待てよ」
木村のされるがままに立ち去ろうとした時、背後から元夫の声が聞こえた。