ニセモノの白い椿【完結】
「――木村さん、もう、行こう」
この涙を、元夫には見られたくないと思った。
だから、すぐに身を翻し背を向けた。
これで終わりだ。
もう、前だけを向いて歩いて行く。
元夫に背を向けたと同時に「さよなら」と言葉にした。
私はずっと受け身で、言われるがままに離婚して、別れの言葉さえこの人に言っていなかったのだ。
迫上がって来る感情のせいで涙までも次々に目に滲んで来るから、それを必死でこらえようと力を込めると身体が震えた。
今度は、その身体の震えを抑えようと手のひらをぐっと強く握り締めた。
手の甲が真っ白になるくらい、力を込めた。
背後にいる私の痛い過去から離れるために、大股で歩いて行く。
必死に足を踏み出して、俯かないように真っ直ぐに前を見て歩いた。
その時、硬く握り締められた私の手を、大きな手のひらが包み込んだ。
それに驚いて見上げると、やっぱり前を向いている木村の横顔があった。
そして、その手のひらに力が入り私の手を強く掴むと、私を引っ張った。
私をここから連れ出すみたいに、木村が私の手を引いて行く。
痛いくらいに強い力で掴まれた。
どうしてそんなに強い力で掴まれていたのか分からない。
お互い何も言葉を発しない。足早に歩いていた足がいつの間にか走り出して。
地下鉄に乗り込んだ時には、二人して息を乱していた。
気付けば木村の手は離れていた。
「――生田さん」
「ん?」
呼吸を整えながら、木村が私をドア側にやりその正面に立った。
「……ごめん」
「何が?」
木村が神妙な表情で私を見ている。何を考えているのか、難しい顔をしていた。
「勝手なことをして」
「勝手なこと……?」
真正面に立つ木村を見つめる。