ニセモノの白い椿【完結】
「もし、まだ旦那さんに想いが残っているのだとしたら、さっきの俺の行動は、あなたの未来を壊したことになる」
どこか苦しげな木村の眼差しに、私は苦笑した。
「ううん。もう、いいの。あれで良かった。これで、完全に終わることが出来たんだよ」
あれで、いい。いいのだ。
「……ごめん。俺が耐えられなかったんだ」
そう言葉を吐くと、木村の視線は何も見えない地下鉄の窓の向こうに移った。
「あの人が、生田さんの夫だった人で、二人は夫婦っていう関係だった。それが悔しかったんだ。『元夫がなんだ! 俺は親友だぞ!』ってね。一体、何の対抗意識なんだか。まったく子供じみてるよ」
無理に作ったような木村のぎこちない笑顔を見上げ、私は頭を振った。
「ありがと……」
きっと木村は、大恥をかいた私を気遣っている――。
そう思えた。元夫だった人に、あんなにも酷い言葉をぶつけられた私は、普通に考えればとんだ笑いもので。捨てられた挙句に罵られた、悲惨な元妻だ。
そんな私が、惨めさに叩きのめされないように、気遣ってくれている。
その優しさが、嬉しくもあり、苦しくもあった。
「本当に、酷いやり取りだったでしょ? もう、笑うしかない。夫だった人にあんなこと言われて。悔しいとか哀しいとか通り越して、可笑しくなってくる。本当に、笑える……」
出会って結婚して。そんな人との最後の会話があれだなんて。
どれだけ酷い仕打ちだよ。
でも、それが本当の私たちだったのだ。
悔しくて虚しくて苦しい。だけど――。
「――今日は、飲もうか」
「え……?」
木村の急に明るくなった声が私に向けられた。
「今日飲まずしていつ飲むんだって感じだろ? とことん飲もう」
「……そうだね。そうしよう」
私が笑って頷くと、笑顔が、でも、やっぱり少し歪んでいるように見えた表情が私を見つめていた。