ニセモノの白い椿【完結】
「あの日、生田さんと職場の廊下でぶつかった。その後、外回りから戻る途中で見かけたんだ。すぐに、あなただと気付いた」
あの、惨めなシーンを見られていた……。
元夫と、夫を奪った女。加害者であるはずの二人が、何故か勝ち誇った顔をして私の前にいた。
悔しくてやるせなくて、どうしようもなかった日。
「それで、偶然にも、あなたが俺の行きつけのバーに入って行くのを見て。それで、仕事帰りに俺もバーに寄ってみたんだよ」
「そう、だったんだ……」
職場で見かけた女だったから、気になったーーということか。
「通りの真ん中で異様な雰囲気だったからね。目に付いたんだ。
そのあと、バーであなたの話を聞いて。
つまり、初めて会った日から知ってるってこと。恥ずかしいなんて思う必要ないから」
この人は、最初から全部分かってるんだ。私のこと、何もかも――。
「結局、木村さんには全部見られてるんだね。私の恥ずかしい場面も、困っている時も。そして、そのたびに助けてくれる。木村さん、なんだかスーパーマンみたいだね。そう言えば言っていたもんね。”俺は困った人を放っておけないから”って」
そう言って私が笑うと、木村は困ったような顔をしただけでそれには答えずに、缶ビールのプルタブに指をかけていた。
「それにしても生田さん、男見る目なさ過ぎでしょ。あなたなら、もっといい人選べただろ」
そして、勢いよく缶ビールを飲み干すと、木村が話題をさりげなく変えた。
――男を見る目がない。
おっしゃる通り。本当に、心底、そう思う。
アルコールのせいか、頬が火照って仕方ない。
ゆらゆらとする身体を倒し、ローテーブルに頬をつける。
テーブルのガラスが頬に冷たくて、気持ちいい。