ニセモノの白い椿【完結】
「ーー前に、家族連れを見て、生田さん、言ったよね。自分にはもうない姿かなって」
ぽつりと、木村がそう口にした。
ホームセンターでのことか。
確かにあの時、小さな子どもを連れた夫婦を見て、少し寂しくなった。
「でも、そう思うには、まだ早い。この先、幸せになるんだと強く願えば、必ず幸せになれる。俺は、そう思うよ」
「そんな、無責任なこと言って」
鼻をすすりながら抗議する。
「だって、本当にそう思うから」
「はいはい。そうですか」
まだ涙は止まらないから、顔を上げることはできない。だから、言葉だけであしらう。
「信じてないな」
そう言って木村が笑うのが聞こえる。
「俺はあなたの裏の性格を知ってる。口は悪いし、酒飲み過ぎると暴れるし。それに、二重人格。でも、そんなあなたも全部ひっくるめて、生田さんは可愛い人だと思う」
「……え?」
思わず、涙も鼻水も垂れ流したまま顔を上げてしまった。
「外では絶対に見せない、そんな無防備な顔もね。一緒に暮らして、多少なりともあなたのいろんな素顔を見て。それでも、そう思うのだから、大丈夫だよ。ありのままの生田さんを見て、可愛いと思う男は、絶対にいる」
私が、可愛いーー?
やっぱり、木村も酔ってるな。
「男の俺が言うんだ。間違いない」
「な、なによ。友達のあなたにそんなこと言われても、説得力ないんですケド」
あまりに真っ直ぐに見つめられるから、今度は咄嗟にそんなことを言って誤魔化してしまう。
「友達だからこそ、本当のことを言えるってこともある」
”友達”
その響きは、心地いい。
傷付けることも傷付けられることもない。
木村との距離は、心地よくて優しくて。
「怖がらないで。自分をもっと、信じろ」
頭にあった大きな手のひらがゆっくりと下りて来て、私の頬に触れる。長い指がそっと肌を滑る。その指に、胸が激しく鼓動した。向けられる視線に、胸が締め付けられて苦しい――。