ニセモノの白い椿【完結】
熱を帯びたように見えたその視線に、一瞬空気が張り詰めたように感じたけれど。
「外見じゃなくて、本当の意味で、あなたは、とびっきりいい女だって言ってんだよっ!」
張り詰めた空気を引き裂くように、その意味ありげな指は私の額でパチンと跳ねた。
ただ、私の鼓動だけが取り残される。
”友達”
そんなものが、こんなにも激しく胸を動かすのか。
分からない。でも――。
「それは、どうも」
おでこを押さえながら俯く。
それでも。木村のくれた言葉が私の胸を温かくしてくれたのも事実。
確実に、私の何かが変わり始めている。
真っ暗だった未来が、少し違うものに見えた。
「この経験を生かして、次は絶対にもっといい男を探せよ」
「はいはい」
「ちゃんと見極めること。惚れられたからといってホイホイついて行ったりしちゃだめだから。生田さんって、悪魔のような性格かと思えば、意外に情に厚かったりするからね」
木村がぶつぶつと零す。
「立科とか……」
「え? なに」
「立科は、絶対にだめだから」
「はぁ?」
先ほどの息苦しいまでの空気は嘘のようで。
どうでもいいことを大真面目に言い合って、
友達として、それは、まるで姉弟みたいに。
「そんなこと言われなくたって、立科さんのことなんとも思ってないし。あんな強引なアプローチに落ちるわけない」
「元旦那の強引なアプローチに落ちたと言っていたのは、誰だっけ?」
「うるさいっ!」
咄嗟に振り上げた腕を、木村が掴んだ。
「――涙、止まったね。よかった」
振り上げた私の腕を阻止しながら木村が笑うから、私は、また悔しくなって声を張り上げる。
「木村さんと話してると、何の話をしていたのか分からなくなる!」
「……それでいいよ。俺は、生田さんには笑っていてほしいから。女の子は笑っていないとね」
それは、職場を離れたところで見せる、チャラい笑顔と発言で。
「この、チャラ男め!」
「チャラいとは失礼な。優しい男だと言って欲しいね」
「うるさい!」
虚しさも苦しみも哀しみも、気付けば涙にして全部外へと出し切っていた。
そして、今、私は笑っている。
でも、それと引き換えに、胸の奥の奥で、新たな痛みを感じて。
その痛みを掻き消したくて、この夜、私は言いたいことを言って声を張り上げ、笑い続けた。
二人で飲んではまた笑う。
友達にするみたいに。
姉みたいに。