ニセモノの白い椿【完結】
「……すみません、初めてなのですが、大丈夫ですか……?」
飲んでやる。飲んで飲んで、飲みまくってやる――!
と意気込んで、近くにあったこの店に飛び込んでみたものの、急に不安になる。
通りに小さな看板があって、階段を下りて地下にある店だった。
暖かみのある木の扉が敷居を下げてくれていたけれど、いざ入ってみれば、あれこれと考えてしまった。
都会には会員制のバーがあると聞いたことがある。
「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ。どうぞ、おかけくださいませ」
カウンターの向こうにいるバーテンダーが、紳士的な笑顔で優しく答えてくれた。
店内は広くもなく狭くもなく。カウンターに5席ほど、そしてスツールとテーブル―の席が3つほどの店だった。
カウンターにはお客さんはいなくて、奥のテーブル席に一組の客がいただけだ。
バーに来るには、まだ早い時間だったのかもしれない。
「じゃあ」
「どうぞ。何にされますか?」
カウンターの一番端の席に座ると、バーテンダーが私の前に立つ。
「こういうところに来るの、初めてなんです。いつもはビールとか焼酎とか、サワーとか。そういうものしか飲まないので――」
結婚していた頃は、飲みに行くなんてことはまずなかった。
元夫は、私が外に出ることを極端に嫌がっていたから。仕事も、有無を言わさず辞めさせられたくらいだ。そもそも、元夫の前で酒すら飲んだこともないかもしれない。
「では、飲みやすいものをお出ししていいですか?」
「はい。お願いします」
ここは、お任せしておこう。
いろいろ考えずに、ただ酔いたいだけなのだ。
間接照明の店内は、ほどよく薄暗い。
そのおかげで、初めての私でも居心地悪さを感じずに済んだ。
心を落ち着かせるBGM。何の下調べもせずに入った割に、いい店でよかったと安堵する。
「――どうぞ」
目の前に出されたのは、見た目が白いお酒。
「ホワイトレディーと言うカクテルです。女性でも飲みやすいカクテルですから、飲んでみてください」
「ホワイトレディー……」
見た目の通りの名前だ。