ニセモノの白い椿【完結】


「お客様のイメージで、作らせていただきました。甘味もあるのですが、でも、決して甘過ぎず少しシャープさもあるのどごしです」

「私のイメージ、ですか……?」

驚いてバーテンダーを見つめると、静かに微笑み、自分の仕事に手を戻していた。

バーテンダーって、本当にこういう感じなんだ。
そういうことスマートに言えてしまうのか。
それでも、全然嫌な気分じゃない。

女性だからと言って甘いだけの飲み物じゃなくて、私を見てシャープさも加えたってこと……?

初めて来た客を見て、すぐそういうイメージを膨らませてお酒を作る。

これぞ、バー? 

なんて、密かに興奮してしまった。

「じゃあ、いただきます」

透明な曇りないグラスに、お上品な量の白い綺麗な液体が注がれている。そのグラスを手にして一息に飲み干した。

「美味しい。爽やかで、本当に飲みやすい」

「それは、良かったです」

空っぽになっていた心にアルコールが染み渡る。
傷つきまくっていた心には、痛いほどに染み渡り、感情を過敏にさせて行く。

あの男の、あの女に向けていたあの表情――。

――椿、好きだよ。僕の、理想のひと。

私に触れる時に見せた表情と、同じだった。いや、少し違ったかもしれない。
もっと、自然なものだっただろうか。あの女には素の自分を曝け出しているのか。

何が人形だ。あんただって、私に見せていた顔は本物じゃなかったんじゃないか。

哀しみを追い払うためなのか、哀しみに飲まれないように、懸命に怒りの感情を引き出す。

「すみません、もう一杯ください」

「どういうものにしましょうか?」

「お任せします。さっき出してくださったのも、本当に美味しかったから」

「かしこまりました」

もう、忘れたい。
あの男との思い出も、何もかも――。

私にとって、本当は、全然取るに足らないものなんかじゃなかった。
一年という結婚生活は、大きな大きな時間だった。
だからこそ、もう、全部忘れたい。
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