ニセモノの白い椿【完結】


帰宅途中のサラリーマン、夜遊びに向かおうとしている風の人たち。いろんな人種の人たちが行き交う中で、表参道駅に向かって歩いていた。

あ、あれ――。

私が歩いている大きな通りから続く小さな路地に入って行く木村らしき人が目に入った。

仕事帰りだろうか。
でも、その向かう先は駅とは反対方向だった。

どこかに寄るのだろうか――。

そう思ったところだった。
隣に誰かがいることに気付く。

私の足が止まる。

笑顔の木村の隣に、慎ましやかに笑う女性。
二人、楽しそうに並んで歩いていた。

その女性は、見たことのない人だった。
そしてその木村の笑顔は、職場で見せるものでも私にだけ見せるものとも違っていた。

私の胸が、訳も分からず激しく動く。痛みさえも伴っている。
この痛みが何なのか。

そして次の瞬間、一際強く鋭い痛みが胸を突き刺した。

並んで歩く二人が、路地沿いにあるマンションへと入って行った。

その二つの背中が目に焼き付いて、しばらくその場を動けなかった。

木村が女とマンションに入って行った。

それがどうしたというのだ。
そういうことがあったって不思議じゃない。

なのに、どうして私がこんなにも激しく動揺して、胸に痛みなんか感じなければならないのか。

そんな自分がたまらなく嫌だった。
傷つく立場に、私はいない。
この光景を見て傷付く自分のあつかましさに、嫌悪を感じるのに。
この胸の痛みを止められないのだ。

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