ニセモノの白い椿【完結】
真っ暗な部屋にたどり着く。
いつも私の方が帰りが早い。暗い部屋に帰るのは慣れているのに、どうして今日はこんなにもこの暗闇が心に沁みるのか。
普通ならそのままリビングダイニングに直行する。でも、どうしてもそうする気にならなかった。
自分の部屋の扉をパタンと閉じてそのままドアに背中を滑らせる。
明かりもつけないまま、座り込んだ。
こんな気持ちに気付いて、一体、どうするっていうの――?
額に手を当てて、俯く。
どうするも、こうするもない。どうもしない。
私にできることは――それだけだ。
いや、一つ、するべきことがあった。
一刻も早くこの部屋を出て行くこと。
――生田さんなら構わないよ。だって、絶対に俺のこと好きにならないでしょう?
不意に、いつだったか木村が私に言った言葉が頭を過る。
そう、お互い恋愛感情を抱かないことが前提に始まった関係だった。
それを壊したら、もう、終わりだ。絶対に、気付かれてはならない。
私って、結構、薄情な女だったのかな。
ついこの間まで、元夫のことであんなに苦しんでいたと言うのに、もう違う誰かを想うなんて。
チャラいのは、私じゃないか――。
無理に笑ってみようとするけれど、上手く笑えなかった。
今日は、帰って来ないのだろうか――。
私には関係のないことなのに、そんなことを思う。
膝に顔を埋める。
苦しい。暗闇がその苦しみを鮮明にする。
何もする気になれなくてただじっとしていた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
思いもかけず、玄関の方から鍵が開く音がした。
え――? こんなに早く――?
思わず顔を上げた。
「あれ、生田さん、まだ帰ってないのかな」
ひとり言なのか返事を求めているのかあいまいな声が耳に届く。
考える前に、部屋を飛び出していた。
「あぁ、帰ってたんだ。部屋が暗いから、いないのかと――」
「どうして、こんなに早いの?」
「……え?」
いつもと変わらない木村の表情を見て、私はたまらなくなった。