ニセモノの白い椿【完結】
「な、なに? どうしたの、急に」
何を怒ってるの――?
「俺に付き合っている人がいたり、遊びの女がいたら、そんなに楽しいのか」
「どうして怒るのよ。いいじゃない、そういう人がいた方が。木村さんの年齢なら、むしろ普通のことだよ」
訳が分からない。
「付き合っている女も遊びの女も、いない」
「どうして私にそんな弁解を? 私たち友人だよね。むしろ、応援する立場だよ」
「だから、いないって言ってるだろ」
私の腕を掴む木村の手の力が、更に強くなる。
「ちょっ……っ。手、痛い。離して――」
「俺の言うことを信じるまで、離さない」
「意味が分からないんですけど。一体、何の真似?」
どうしてこの人が怒っているのか。どうして腕なんか掴まれているのか。
理解不能だ。
「木村さんに恋人がいようが遊ぶ女がいようが、私には関係ないことだよ!」
至近距離で強い眼差しを向けられ、耐えられなくなって視線を逸らした。
私の虚しい叫びが、リビングダイニングに哀しく漂う。
「……それも、そうだね。あなたの言う通りだ」
木村の手が、私の腕から離れて行った。
どうして木村が、そんな風に傷付いたような顔をするのか。
もう上手く笑うことも出来なくて、木村をただ見つめていた。
「でも。違うものは違うから。誰だって、間違ったことを間違ったままにはしたくないだろ。それと同じだ」
弱々しく笑う木村に、告げる言葉が見つからない。
何かを振り切るように木村が息をふっと吐くと、姿勢を正して私に向き合った。
「今度の土曜日、ちょっと付き合ってよ」
「付き合うって、どこに……?」
今度は、何?
さっぱり意味が分からない。
「俺の言っていることが本当だと分かる場所だよ」
そうとだけ私に告げると、木村は自分の部屋へと戻って行った。