ニセモノの白い椿【完結】
「ここは……」
その週の土曜日、木村に連れて来られた場所に私は驚いた。
「さあ、行こうか」
目を見開いて呆然と立つ私に構わず、木村がすたすたと行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ここって――」
木村と見知らぬ女性が二人して入って行ったマンションだ。
どうして、私をこんなところに――。
呼び止めた私に木村が振り返った。
「驚いたでしょ」
「そりゃあ、驚くでしょ!」
口をぱくぱくとさせている私を、木村が可笑しそうに見ている。
「仕方ないな、種明かしをするか……」
「そういうことは、到着する前にしてください!」
軽く抗議する。こっちは、何が何やらちんぷんかんぷんだ。
やたらと大きいエントランスのガラスの自動ドア。その向こうには、コンシェルジュが駐在している高級感たっぷりのカウンターが見える。
「あなたが俺を見たというこのマンションは、友人の住むマンションなの。それで、あなたが見たという女性は、おそらく、その友人の奥さんです。分かった?」
「え? 友人? 奥さん?」
私は、何か、大きな勘違いをしていたのだろうか――。
「あの日、ここに来る約束を友人としていて。たまたまその奥さんが買い物していたのと遭遇したから一緒に向かっただけのこと。それを生田さんが見たんだと思う」
「友人の、奥様……」
あの人は、木村の友人の奥さんだった。
「あっ、で、でも。そんなところに、私なんかが一緒に行くのはおかしいんじゃない? 私、完全な部外者じゃ――」
私と木村は、木村の友人夫妻に紹介されるような関係じゃない。
それはそれで、今度は違う理由で慌てる。