ニセモノの白い椿【完結】
「一緒に暮らしてる仲じゃないか。むしろただの友人より深い関係だろ?」
木村が、意地悪い目で私を見る。
この人、完全に面白がってるよね――?
ただじろりと睨むことしか出来ない。
「向こうも、俺があなたと暮らしてるって話したらぜひ連れて来いってうるさくてね。だから、遠慮しなくて大丈夫」
にこにことどこか楽しそうに告げる木村に、私は不安しか感じない。
「その友人とやらは、私と木村さんの関係を正確に把握しているんでしょうね?」
一緒に暮らしているだなんて聞いたら、それこそ勘違いするだろう。
その点が、非常に不安になる。
「大丈夫だよ。少なくとも、奴とは、あなたと一緒に暮らしていることを言えるだけの関係だから。古い友達。腐れ縁。だから、心配しないで」
それって、もしかして――。
また更なる緊張が私の身体を突き抜ける。
「ねえ、その友人って、まさか」
「ん?」
「榊の御曹司じゃないよね……?」
違うと言ってほしくて息を飲む。
「ああ。そうだよ」
腹が立つほどあっさりと、木村は頷いた。
「大丈夫大丈夫。結婚前はとんでもない奴だったけど、結婚して、かなり真っ当な人間になったから。安心してー」
「そいうことじゃなくて……」
どこまでも軽いノリの木村に、軽くめまいを覚えた。
「私、何も手土産を準備していないんですけど」
どうして最初から説明しておいてくれなかったのか。
まあ、最初から説明されていたら、絶対に一緒に来なかったけど。
「手土産? そんなの、俺が準備してあるから大丈夫。二つ持ってくる必要もないでしょ」
そう言って、木村がしっかりした造りの紙袋を掲げる。
エレベーターまで高級感が溢れている。
ブラウンの木目が麗しい壁に、大理石のような床。
さすが、日本を代表する企業一族のお住まいだ。
考えただけで、気が重くなる。
「ねぇ……。完全に、私だけが場違いな気がするんだけど。御曹司様に、都市銀頭取の息子。それに、奥様だってきっと、どこかのご令嬢だった方でしょう?」
それなりに誰とでもそつなく対応できる自信はある。三十過ぎた大人だし。
でも、ただ、そんなやんごとなき方たちとお話しても、疲れるだけだ。
上昇していくエレベーターの中で、溜息をついてしまった。
「ところが、奥さんね、まったくそういう家の子じゃないんだよ。本当に、フツーの家の子だったの」
「普通……?」
普通って、一般家庭の子だったということか。榊と言えば、そんじょそこらの家じゃないはず。そういう家の息子でも、普通の人と結婚したりするんだ。
純粋に驚いた。
「そうそう。ごくごく普通の、むしろ、苦労している方の子かもしれない。だから、身構える必要ないよ。……まあ、会えば分るさ」
そんな彼女と名門一族の息子がどんなふうに出会って結婚に至ったのか、単純に興味が湧いた。
でも、それ以上に、やはりこの緊張感の方が大きい。