ニセモノの白い椿【完結】

「いらっしゃい」

重厚な扉の先に、私たちを出迎える女性と男性が並んでいた。
柔らかな雰囲気を纏った女性と、なんとも言えないオーラを放つ男性。背が高く視線が鋭いからか、威圧感さえ感じる。更に私の中の緊張感が増した。

「本日は、お招きありがとう」

私の一歩先に立つ木村が、にこやかな声で応える。

確かに――。出迎えてくれた女性は、私が見かけた人だった。

「初めまして。私までお邪魔させていただいて、申し訳ありあません」

何はともあれ挨拶をしなければと、木村の後に続いてすぐさま頭を下げた。

「来てくださって嬉しいです。大勢の方が楽しいですから」

緊張気味の私に、柔らかな声が降って来る。頭をあげると、ふんわりとした笑顔が私に向けられていた。

感じのいい人――。

それが雰囲気すべてに表れているような気がする。
そして、その優しげな微笑みが隣に立つ男性へと移る。

「ああ、そうだな。こんなところで話し込んでいてもなんだ、早くあがってもらうか」

それに応えるように、背の高い男性が少し身をかがめて視線を合わせる。その時の表情に、ドキッとした。

ふっと、表情が変わったからだ。

切れ長の鋭い眼差しが、一瞬にして優しく細められる。
それはほんの少しの変化だ。でも、ただそれだけで女性に対する想いが伝わる。
視線を合わせた二人の雰囲気に思わず見入ってしまう。

「そうですね。さあ、どうぞ」

女性が私たちにそう言うと、木村が振り返った。

「生田さん、じゃあ、お邪魔しようか」

「は、はい」

まず目に入って来たご夫婦の雰囲気に圧倒されていたから気が回らなかったけれど、
このマンションーー恐ろしく広く、恐ろしくゴージャスだ。

廊下を歩きながら、その造りに目を奪われた。



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