ニセモノの白い椿【完結】
通されたリビングダイニングは、予想通り庶民感覚では考えられない広さだった。
でも、不思議なことに居心地の悪さとか敷居の高さを感じない。
よくよく見まわしてみると、その理由が分かった。
家具はどれも高級感があるのだけれど、置かれているものにどこか親近感がわく。
暖かみのある写真立てがいくつか並べられていたり、可愛らしい花や観葉植物が多く飾られている。
「どうぞ、こちらに座ってください」
ついつい見回してしまっていた私に声が掛けられる。
「あ、はい」
大きめのダイニングテーブルで、木村の隣に座る。
その正面に奥様、その隣に御曹司様。
皆が席につく。テーブルには、既に料理が準備されていた。
そのどれも、とても美味しそうで。それでいて、やっぱり、どこか懐かしい感じの料理で。そのおかげで、心がホッとしたりした。
「とりあえず、紹介しないとね。まずは、俺の友人。というか腐れ縁? 悪友? 榊創介だよ」
木村が私に少し身体を向けて、斜め前に座る御曹司様を紹介してくれた。
「悪友だと? 俺は、おまえの悪友になった覚えはない。腐れ縁だというのは、事実だな」
そう低い声で言うと、私を真っ直ぐに見て「榊です」と軽く会釈をした。
その目は危険だ。目だけで殺せるタイプ。これほどまでに雰囲気がある男も、なかなか周囲にはいない。それが、生まれというものだろうか。
木村とは正反対のタイプだな……。
なんて考えつつ、慌ててこちらも会釈する。
「――それから、こちらが創介の奥さん、雪野ちゃんね」
一人お気楽な木村が次に私の目の前に座る奥様を紹介した。
「雪野と申します。よろしくお願いします」
私より年下だということは分かる。白石さんと同じくらいだろうか。でも、雰囲気がまるで違う。落ち着いていて控えめ――そう、控えめなのだ。
これだけ金持ちの家の嫁になり、上流階級の人間に囲まれて何不自由なく暮らしているはずなのに、そういう雰囲気を微塵も感じさせない。親近感さえ感じさせる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
だから、私も自然と笑顔になった。
「で、二人に改めて紹介します。俺の、友人でありルームメイトの生田椿さん」
「生田です。今日は、私までお招きくださって、ありがとうございます」
ゆっくりと頭を下げて、顔を上げた時に静かに微笑んだ。私のよそ行きの表情だ。
その真正面に、きらきらと目を輝かせた雪野さんの顔があった。
「あの……?」
私をあまりにもじっと見つめているものだから、不思議に思って声を漏らしてしまった。
「どうしたの、雪野ちゃん」
それに木村も気付いたのか、彼女に声を掛けていた。
「あっ、ごめんなさい。じっと見てしまって失礼でしたよね。こうして真正面から間近で見ていたら、見惚れてしまって」
大真面目に、そして本当に申し訳なさそうに雪野さんが言った。
「でしょー。すっごい美人だよね。そのせいで、俺の銀行内じゃ男はみんなざわついてるよ」
「ちょっと、余計なことを――」
隣でへらへらと木村が調子のよいことを言うものだから、ついオフモードの私が顔を出そうとしてしまって慌てて口を噤んだ。
「それも無理はないですよね。本当に、女優さんみたいで。気を緩めたらいつまでも見ていてしまう感じで……」
雪野さん、褒め過ぎです――。いや、よく、言われます。
と答えるわけにもいかず、微笑みで返すと、なぜか雪野さんが頬を赤らめた。
それから、料理を勧められ、口にした。