ニセモノの白い椿【完結】
「……怖かったです。本当に、何もかも」
じゃがいもの皮をむきながら、雪野さんが静かに口を開いた。
「私は父親もいなくて、大学でさえ奨学金でなんとか通えているような家庭環境で。そんな私が、どう考えても創介さんと釣り合うはずなんてなくて。二人で会っていることさえ夢なんじゃないかと思うほど。いつか終わりが来るって、覚悟をしている日々でした」
「それでも、一緒にいることを選んだ……?」
それは、どれほどの想いなのだろう。おそらく、その家の格の違いは、榊さんよりも雪野さんの方に苦しい思いを与えていただろう。
「いえ。最初は、選んだなんて、立派なものじゃないんです。創介さんとの未来なんて考えたこともないし。周囲の人からも咎められました。自分自身だって、先のない関係に辛くなって逃げ出したくなった時もあった。でも、思ったんです。どれだけ周囲に間違っていると言われても、絶対にいつかは捨てられると分かっていても、私の心は私だけのものだって」
優しげで柔らかな雰囲気を纏った雪野さんの、強い意思のこもった眼差しに心を捕らえられた。
「あの人を好きだという気持ち。その感情に、家柄が違い過ぎるとか遊ばれているだけだとか言ったところで、そんな理屈通用しないでしょう? 私のその想いは誰のものでもない私だけのもの。誰かに奪われるようなものじゃない。どんなに傷付く結末が待っていてもそれは全部自分で引き受ける。そう思うことにしたんです」
何も持っていない私の唯一のプライドみたいなものだったんでしょうね――そう言って微笑む雪野さんが、とてもとても美しく見えた。優しいだけじゃない、強い人なんだって。
――好きだという気持ちは、誰のものでもない自分自身のもの。
その言葉がダイレクトに私の心に響く。
どんなに傷付くことになってもそれさえもすべて受け止める。
人を好きになる感情は制御できるものでもなければ、自由に変えられるものでもない。
だったら、その想いを自分自身が受け止める――雪野さんは、そう言いたいのかもしれない。