ニセモノの白い椿【完結】
マンションのエントランスを出ると、木村が私に振り返った。
「今日は無理やり連れて来ちゃったけど、大丈夫だった? 楽しかった?」
「うん。最初は緊張したけど、とにかく雪野さんが温かい人で、楽しかった」
正直にそう答えると、木村が何かを考えるような表情をした。
空は既に薄暗く、もう夜はそこまで来ている。
「あのさ、ちょっと寄り道していかない?」
「寄り道? これから?」
私が驚いて聞き返すと、ぱっと表情を変えて木村が満面の笑みになった。
「うん。行こう!」
そう言うと私の腕を取り、ずんずんと歩き出した。
そして気付けばタクシーに乗せられていた。
そうして連れて来られた場所は、車で10分ほどのところにあった超高層ビル。
その最上階の展望室だった。
「わぁ、綺麗!」
可愛げなんてものはもうとっくの昔になくしてしまった私でも、感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。それほどまでに、都心の夜景がキラキラと眼下に広がる。
子どもみたいにガラスの窓にへばりついてしまった。
「……良かった、喜んでくれて」
私の隣に立つと、木村がぽつりと言った。
「うん。2月頃に弟と弟の彼女にスカイツリーに連れて行ってもらったんだけどその時は昼間だったから。夜景となるとまた違うね。とっても綺麗……」
何百万という人たちが暮らす都会の光が、ここから見ると小さな粒の連なりでしかなくて。日々の現実から遠く離れた場所にいると錯覚しそうになる。
「連れて来てくれてありがとう」
ここは素直に礼を言っておこう。
「今日は、えらく素直だね」
そう思ったそばから、やっぱり木村からはそんな答えが返って来る。
私の隣で、窓ガラスに背を預けながら木村は立っていた。
「こちらこそ、今日はお付き合いくださり、ありがとうございました」
「ありがとうなんて、どうしたの?」
突然、礼なんて言い出した木村を不思議に思い、思わず夜景から木村へと視線を動かす。