ニセモノの白い椿【完結】

「ああ。もう、それはそれは、恐ろしいほどにね」

木村の口調に笑ってしまいそうになったけれど、その表情が思いのほか真面目なもので驚く。

「どうしても自分のものにしたくて、周りの人間から大反対されても自分の意思を貫いた。榊ほどの家になれば結婚だって本来なら自由にできない。もちろん、ご立派な家の娘さんが婚約者として決まっていたよ。それなのに、すべてを敵に回してまでも雪野ちゃんを手に入れたんだ」

キッチンで二人並んで話をしたときのことを思い出す。
静かに微笑んでいたその笑みの裏には、私の知り得ない葛藤や苦労があるのだろう。

そして、榊さんも。それほどまでに強い思いで雪野さんを愛した――。

「凄いね。それだけ想える相手に出会えたこと、羨ましいと思う」

二人の想いの強さを前にして、私なんてそんな言葉くらいしか出て来なかった。

「――生田さんは、雪野ちゃんを見て、幸せそうに見えた?」

「え……?」

窓の向こうを見つめたまま、木村が静かに言った。

それは、一体どういう意味なのだろう――?

そんなの、当然……。

「え、ええ。榊さんが雪野さんを大事に想っていることもすごく伝わったし、それに雪野さんも。ただただ真っ直ぐに榊さんを想っていたんだって、雪野さんに少し話を聞いたんだ。だから、そんなに好きな人と一緒にいられるんだから、やっぱり幸せなんじゃないかな……」

そう答えるけれど、木村の表情を見ていると口籠る。
いつもの何を考えているのか分からないような表情ではない、何かを胸に秘めた表情をしていた。

「……俺は、少し違う考え」

「違うって――」

「俺は、あの二人が付き合うことに反対したんだ。創介が誰かの忠告を聞くような男じゃないことは分かっていた。だから、創介の知らないところで、雪野ちゃんだけを呼び出して別れさせようとしたことがある。別れた方が良かった。そう思った気持ちは、今でも変わらない」

え――?

あまりに驚いて、声にならなかった。


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