ニセモノの白い椿【完結】

「俺、結構、卑劣なことしてるでしょ。引いた?」

木村がゆっくりと顔をこちらへと向ける。
私は頷くでもなく否定するでもなく、ただ木村を見つめた。

「雪野ちゃんと創介では、あまりに生きている世界が違い過ぎた。創介のいる世界は、普通とはかけ離れているんだよ。将来の榊グループのトップに立つ男なんだ、愛とか恋とかそんなことで結婚できるわけでもない。家にとって相応しい相手と結婚する。それも当然創介は分かっていた。だから、女と真剣に付き合うようなこともない。その場限りの女と後腐れなく遊ぶ。それでよかった」

「でも、雪野さんは違ったんでしょう?」

そんな割り切った感情の中で、雪野さんと出会って本当の愛を知ったのなら、それはすごく素敵なことじゃないのか。

「確かに、創介は雪野ちゃんにだけは違ったよ。欲しいと望めば何でも手に入って、誰でも意のままに出来る。だから、何かを強く望むこともなかった。何不自由ない人生の中で、おそらく初めて、どうしても手に入れたいと思ったもの。それが雪野ちゃんだ。あいつが心から愛した最初で最後の人だ」

「その想いを貫いたんだよね? だから二人は結婚した。なのに、なんで……?」

二人を反対する気持ちが、『今でも変わらない』って、どういう意味なの――?

「雪野ちゃんは、慎ましい子だったよ。何の見返りもない、何も望まない。ただ創介への想いだけで傍にいた。創介はそんな雪野ちゃんの想いを利用して、自分の感情を優先したんだ。どうしても雪野ちゃんが欲しいという感情をね」

「利用だなんて、そんな言い方……。好きなら一緒にいたいと思うのが普通でしょ?」

木村の言わんとすることが分からなくて、つい語気が強くなる。

「それは、雪野ちゃんの幸せを考えていると言えるか? 欲しいから手に入れる。それだけで突っ走ってその後は? 家の違いも、周囲の目も、結局苦労するのは雪野ちゃんの方なんだよ。結婚すると言ったって一筋縄ではいかない。なんとか結婚にたどりつけても、どんな現実が待っているのか。そんなの容易に想像できる。それなのに、それらをすべて無視して自分の願望を優先した」

木村が捲し立てる。

 
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