ニセモノの白い椿【完結】
「雪野ちゃんは、創介を愛しているから頑張るんだよ。辛い目にあっても、嫌なことがあっても。
そりゃあ、創介は幸せだろう。心底愛している人を手に入れて、いつも傍に置いておける。
でも、雪野ちゃんは? もっと普通の幸せがあったかもしれない。なのに、背負わなくていい重荷を背負ってずっと苦労し続ける。周囲から心無いことを言われたりされたりする。雪野ちゃんはそれを耐えるだけだ」
「そんなに、いろいろあるの……?」
木村の言葉の端々から、悔しさみたいなものが感じ取れた。
それだけ、雪野さんは理不尽な扱いをされているということか。
「それはもう、醜い部分のある世界だからね。上流階級といっても、創介の家はその中でもダントツ。周囲からの注目度も何もかも、尋常じゃない。雪野ちゃんに対する妬みもある。結婚してから今日まで、雪野ちゃんがどれだけの涙を流して来たか、容易に想像がつく」
そう言うと、木村は口を噤んだ。
「――結局、辛い思いをするのは、立場が弱い方なんだよ」
そして、絞り出すように声を漏らした。
「俺は、大事な人であればあるほど、そんな苦労をさせたいとは思わないよ」
吐き出した声は、悲しいほどに静かなもので。木村は、また窓の向こうに視線をやった。
「……雪野さんの言う通りだね」
私は、ふっと息を吐いた。
「え……?」
――実は一番、いろんなことを考えている人なんじゃないかと思う時があります。自分のことより、相手のことを考えちゃう人。誰かが傷付くのを見たくない、優しい人。
雪野さんが木村のことをそう言っていた。
「木村さんは、本当は、真面目で優しい人だったんだ。いつもふざけてばかりだと思っていたけど」
とりあえず笑っておくけど、やっぱり上手く笑えない。
「あなたは、人に優しすぎるのかもね」
本当は、いろんなことを深く深く考えて行動している。
それを他人に見せないだけだ。
「優しい……か。俺自身もただ単に傷付きやすいタイプなだけかもしれないけどね」
「優しいよ。木村さんは……」
木村と出会って今日まで、知れば知るほど、その心に触れれば触れるほど、私は揺さぶられた。
気付いた時には、この人のことで心の中は一杯になっていた。
「ねえ」
日頃、軽い雰囲気を纏うのも、何もかも、深い思いがあってのこと。
その笑顔の裏には、真っ直ぐ過ぎるほどの心がある。だから、私はこの人に惹かれたんだ。
「ん?」
私が呼びかけると、ゆっくりと私の方を向いた。
無造作に整えられた前髪から、よく見れば、ものすごく綺麗な目がのぞく。