ニセモノの白い椿【完結】
黒縁眼鏡を、”社内でモテても面倒なだけだから地味にするための小道具”だと言った。
――女の子に言い寄られても、断ることしか出来ない。だから、俺のことを好きになったところで可哀想なだけでしょう?
その言葉を聞いた時は、なんてふざけた野郎だと思った。
でも、それは言い方がふざけているだけであって、理由は至極真っ当なものだったのだ。
結婚する相手は決まっている。だから、恋愛は出来ない。
――誰とも付き合う気はない。
木村はそう言った。
それは、先のない恋愛をしないため。
全部、考えがあってのことだったのだ。
相手のためにも、そして自分のためにも、恋愛なんてするわけにはいかなかった。
これまで節々で木村が発して来た言葉が、次々と繋がっていく。
ちゃんとした結婚相手が決まっている――ということは、木村には婚約者がいるということか。
それが、どの程度具体的な話として存在しているのか。
少なくとも今は、私と同居している……。
そう考えが及んで、ふとまた木村の言葉を思い出す。
『実家にいるのに息が詰まった時、一人になりたい時にここに来る』
実家暮らしのはずなのにどうしてマンションにいるのかと聞いた時だった。
木村はそう答えた。そして、その息が詰まる理由としてこうも言っていた。
『非常に頭の痛い問題。いつまでも逃げていても仕方がないんだけどね。でも、今は、少し一人になって考えたいんだ』
それは、結婚話のことだったのだろうか。
恋人も作らず、そして、女性に目をかけられないように過ごすほど、用意周到に徹底的に覚悟をしていたはずだ。それなのに、今更、何かに思い悩んでいるのだろうか。
でも、もし具体的に話が進んでいるのなら――。
いくら男女の関係がないとは言え、他の女性と同居している状況なんて、いいはずがない。