ニセモノの白い椿【完結】

「……まあ、でも、創介の家ほど格の高い家じゃないからね。最初から結婚する相手が決まっているなんてことはないよ。ただ、俺にとって、俺の家にとってふさわしくて丁度いい見合い相手が出て来た時に結婚が決まる。つまり、結婚相手は決まっていないけど、見合いで結婚する、ということは決まっているという感じかな」

諦めたような、他人事のような言い方だ。でも、それは自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

「木村さんの年齢を考えれば、そろそろなんじゃないの? こんな風に他の女と暮らしているなんてご両親に知られたら――」

木村は、ここで暮らしている私に気を使って、本当は見合い話が来ていることを言えないだけなんじゃないのか。木村に迷惑をかけているのではないか――。

「生田さんが心配することじゃない。俺がここに住んでくれと言ったんだ。大丈夫だからそう言った。だから、そんなこと気にしないで」

「でも――」

「お願いだから」

木村の鋭い声が私の言葉を押し止めさせた。

「今、見合いしているわけでもない。これから先、いつかの話だ。何も気にしないでいいんだよ」

私の中に芽生えたずるい気持ちのせいで、何も言えなくなった。

白石さんの言っていたことは、事実とそうでないものが混ざった、まさに噂話の域を出ないものだったのだろうか。

木村が口にした言葉を言葉のままに信じてしまいたい。
もう少しだけ、ここで木村と過ごしたい――。

それがずるいことだと分かっている。
でも、弱い私は、頷いてしまっていた。

「生田さんは、自分のことだけを考えればいい。そうしてほしいんだ」

「木村さん……?」

そう言った木村さんの表情があまりに痛々しく見えたから、思わず声を上げてしまった。

「この煮物も、美味しいね。冷しゃぶだけで十分なのに、ちょっとしたおかずも添えるんだもん。凄いよ」

でも、木村は箸を動かし始め、そうすることでその話を終わらせたいという意思表示のように思えた。


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