ニセモノの白い椿【完結】
長い梅雨の季節の終わりを告げるような晴れた日だった。
勤務後の夕暮れ時でさえ、その余韻が残っている。
早々に着替えを済ませ、裏口から通りに出た時だった。
「生田さん。今夜、付き合ってくれませんか……?」
背後から、聞き慣れた鬱陶しい声がする。
「すみません。今日は、都合が悪くて」
ちっ、と心の中で舌打ちをしつついつもの調子で事務的に同じセリフを繰り返した。
これだけ断り続けているのだから、そろそろ終わりにしてよ――。
営業スマイルを貼り付けて振り返ると、立科さんはいつもとは全然違う表情をしていた。
「――それは、木村が待っているから?」
え――?
今度は私が表情を強張らせる番だ。冷ややかで、その冷ややかさの奥に怒りが透けて見える、そんな目で私を射抜くように見ていた。
「何、言ってるんですか……?」
動揺するわけにはいかない。そう思うのに、何かとても面倒なことが起こりそうな気配がしてドクドクと私に鼓動で訴えて来る。
「俺、見たんですよ。二人が同じマンションから出て来るところ」
愚かにも無防備にこの顔を引きつらせる。
思わず周囲を見回した。ここは、職場のすぐそばで。
「……こんなところで話すようなことじゃないですよね。今日は、付き合ってくれますね?」
誘いでありながらこちらに断るという選択肢のないその物言いに、ただただ身体が強張るばかりだった。