ニセモノの白い椿【完結】

「すれば、いいんじゃないですか?」

きっと、木村なら上手いこと立科さんを言いくるめてくれるはず――。

そう思って、必死になって平静を装う。

「……やっぱり、やめておきます」

「は……?」

わざとらしく溜息なんかを吐いたりして立科さんがスマホをポケットにしまった。

「電話なんかしても意味がないことに気付きました。口裏を合わせるように嘘を言う可能性もある。あの男のことだ、それくらいのことはなんでもない。そんなことより、せっかく生田さんと二人きりでいられるんだ。お酒を楽しみましょうか」

この男、私を揺さぶりたいのかーー。

自分の中の怒りの沸点に、この感情が近付きつつある。

「……生田さんは、怒った顔も綺麗ですね。別の顔も見てみたい」

きっとーー。
立科さんにとって、私を落とすことはゲームか何かの一種で。
それも、木村が絡んでいることで余計に躍起になっている。

それが分かるだけに、ただただ虚しい徒労感だけが身体に満ちる。

私に言い寄って来る男って、本当にロクな奴がいないーー。

そう思ってすぐにそれはすべて自分に跳ね返る。本当の私が、ロクでもない奴だからだ。

「――私、実は、ロクでもない女ですよ?」

「……え?」

グラスを手にしていた立科さんが脚を組んで私を見る。

「そんな姑息な真似までして追いかけまわすほどの価値、私にはない。時間の無駄だから、やめた方がいい」

いつもの作り物の声じゃない、私から出される低い声。

「生田さん……?」

「あんたのことはクソ野郎だと思っているし、触れられるのも同じ空気吸うのもゴメンだし。私の本心はこれ。分かった?」

クソ野郎。とっとと去りやがれ。

虚像を見つめていたことに気付いただろう。これで、落としたいという熱も冷めるに違いない。
そう思ったのに、立科さんは意味不明に微笑んだ。

「……へぇ。生田さんって猫被ってたんだ」

「それが分かったなら、もういいでしょ――」

「職場の人にばらしてもいいの?」

組んでいた足を解き、私の方に顔を突き出して来た。

「……別に。もう、どうでもいい」

木村とのことを、あることないこと広められるくらいなら、自分の本性なんてこの際どう知られたって構わない。
木村にさえ、迷惑がかからなければーー。

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