ニセモノの白い椿【完結】
「なるほど。自分のことを差し出す代わりに、木村のことは隠しておきたい。そういうことですか。生田さん、何か勘違いしているみたいですが――」
どうしてそうもさっきからそんなに勝ち誇ったような顔をしているのか。
こんな男に追い詰められている自分がたまらなく嫌になる。
「木村と生田さんが、実際のところどんな関係であろうと、俺が見たことを言って回ることの選択権は俺にあるんですよ?
もし俺が言って回れば、間違いなく格好の噂になる。尾ひれがついたりなんかしてどんな内容になるでしょう。
そうなった時、困るのは誰でしょうか。
あなた? いや、そもそも離婚歴があるようなあなたより、エリート街道をまっすぐに歩いている木村の方が失うものは大きい」
この男、私を試しているのだ。
本当に木村とはなんでもないのかどうか――。
「将来、うちの銀行で出世するためには、それ相応のお堅くて家柄の良い女性と結婚するに越したことはない。その話が進んでいるところに、あなたとの噂なんかが出まわったら。木村の経歴に傷を付けることになりますね」
立科さんがほくそ笑む。私は、何も言葉を返せなかった。
こんな男、今すぐにでも振りほどいて立ち去りたい。
でも、そうすることで木村に迷惑をかけることになったら――。
そう思ったら、身動きが取れなかった。
「どうやら、自分の置かれた状況を理解してくれたみたいですね。さあ、そうとなったら飲みましょう?」
何も言い返せないことが肯定していることにもなりかねないのに、どうするのが正解なのか分からず、ただ唇を噛みしめた。