ニセモノの白い椿【完結】
立ち止まる私の脇を、幾人もの通行人が避けて通り過ぎていく。
都会は、たくさんの人で溢れている。でも、どれだけたくさんの人がいても、その誰もが私の知らない人。私になんて気にも留めない人たち。
そんな孤独を感じた。
でも、その時改めて気づく。
都会に出て来て、こんな孤独を感じるのが久しぶりだということ。
それは全部、木村のおかけだ。
木村がいたから、私は、孤独を感じることさえ忘れていた。
何もかもを失って、都会に逃げるように出て来て。
そんな私が寂しさを感じずにすんだのは、木村が近くにいてくれたから。
そんなこと、今思う必要もないのに。どこまでも感傷的な自分に呆れる。
ただの友人みたいに、ただのルームメイトみたいに木村と向き合えるまで、少し時間が必要だった。
孤独に満ちた都会の街を、気が済むまで歩いた。
足の疲れに伴って身体も疲労で一杯になった頃、マンションに帰宅した。
腕時計を確認したら、時刻は22時半を指していた。
もし女性と会っているのなら、帰って来るには早い時間かもしれない。
恐る恐る玄関ドアに鍵を差し込む。
ガチャリと音がしてドアを引くと、暗いと思っていた部屋には明かりがともっていた。
玄関脇の壁にもたれて立っていた木村の姿がすぐに視界に入り、思わず後ずさる。
「あ、あれ、もう帰ってたの……?」
引きつりそうになる表情を無理に笑顔にする。それなのに、目の前にいる木村は私を射抜くように見ていた。
「この時間までずっと立科といたの?」
「……え?」
その声の低さに、更に身体がびくつく。
「ううん。違うよ――きゃ……っ!」
貼り付けた笑顔のまま否定しようとした言葉を最後まで聞くでもなく、勢いのまま私の腕を掴んだ。
「な、なにっ?」
その手の力があまりに強くて、痛いほどで。
すぐ間近にいる木村の、見たこともないほどに怒りに満ちた表情に身体が竦む。
何をそんな怒っているのか。
まったく分からない。理解できないから、木村が全然知らない人に見えた。